「ひどいっつ!!貴方がそんな人だとは思わなかったわ!昔はあんなに優しかったのに!」
  涙を交えて甲高い声で叫ぶ女
「何を言ってるんだ!君だってそうだろう!結婚前はあんなに可愛らしかったのに!」
  苛立ちを隠そうともしないで怒鳴る男
「……もう耐え切れないわ。別れましょう」
「そうだな、その方がいい。結婚して、そんなにたってはないけどやり直すのはお互い早いほうがいい。」
おたがい疲れたような声で意見を交わし、同意する。
幸せな結婚生活は短く過ぎ行き、永遠を誓い、交わったはずの二人の道はまた別れることになった……

嗚呼、若き二人の未来や、いかに!!





いつか訪れるそのときのこと






………………
そしてテレビからエンドロールが流れる。やたらとあっていない音楽のような気がする
なぜここでこんな明るい曲が流れるのかといった曲調だ。失恋の場面で
「さくらんぼ」を流すのと同じくらいまずい選曲。
何を考えてドラマのエンディング曲にしたのだろう。とボーっと考える

今私は「夫婦で同じ時間をすごそうよ」という相方の言葉に付き合って
ドラマを一緒に見ていたのだが、いやはや予想道理甘い空気が生まれる方向性の作品ではなく
新婚夫婦でこんな番組を見るのか考え込みたくなるというもの……
しかしその相方たる奥様はというと


「あーおもしろかった。今時、こんなベタな展開のドラマそうそうないし。」

ソファーにもたれて非常にご機嫌です。一言で言うと「余は満足じゃ」といわんばかり
わかってたことではあるんですが思うことが一つ。

「貴女の趣味はやっぱり少し変わっていますねぇ。」

「そうかな?でも面白いと思うんだけどなぁ。
結婚したらそれだけで幸せになれると思っててお互い努力しなかったから
夫、妻ともに浮気相手を作ってそれが本気になっていくとことか。
で、自分は悪くなくて相手だけ悪いと思ってるとことか。」

「いや、その内容事態が考えさせられるというならわかるんですが、面白いというのはどうかと。」

「んー、でもはたから見てると結構滑稽かなって」

「でも、実際にもありえることですから。まァここまでベタなのはどうかと思いますが」

「ふーん、そんなものかもなぁ。」

「そんのものかなあって、私たちにも可能性はあるんですけどね、あんまり考えたくないんですけど」

「う?珍しいね。そんなこというの?」

「……そうでしょうかね?」

「うん。いつもそういうこというの私のほうだし。結婚式のときとかもそうだったし。」

確かに結婚式の当日に永遠の愛の誓いなんて建前といったりする奥さんの発言に
振り回されていることが多い、いつもの私からすれば珍しいかもしれない。でも


「考えたこと、ありますから」

「うん?」

「私たちの別れるときのことをですよ。」

「……いやいやほんとめずらしいね。そんなこというなんて?」


「ふふふ、そうでしょうね?結婚式前に色々考えて不安になってマリッジブルーですよ?花婿が」


「普通逆だよねぇ?で、どんなふうに考えてたの?
私が貴方を捨てるのかな、それとも貴方が私を捨てるのかな?」


「……捨てるって表現はあんまり好きじゃないんですが。
まぁ私から貴方と別れたいと思うようになるってことは考えもしなかったので
貴方が私を捨てるっていうことのほうでしたね」


貴女に泣いて縋って蹴飛ばされる光景まで容易に想像ができたりして、勝手にへこんでたんでたり。
で、その後、恥ずかしくも素敵なお言葉をいただいてそれについては落ち着きましたが。


「ふふん。ならば捨てられないように努力したまえ。ま、今のままの貴方も気に入ってるけどね?
君はそのままでいて、っていう気もするし。あ、お給料は頑張ってあげてね」


「まぁ、両方とも機前向きに善処したいと思いますよ。まぁ一番悩んでたのは別にあるんですけどね」

「ほうほう?何を悩んでたのかな?
愛人捕まえて奥さんと愛人さんで両手に花でウハウハ計画実行手段とか言ったら刺すよ?」
   
ハァー……相変わらず、すっ飛ばした発言ですこと

「……そんなこという気はない……別っていっても別れることについて
愛が冷めて別れる夫婦以外の場合、その中でも必ずくる別れのときのこと
……いつかはお互い、遅かれ早かれ死ぬんでしょうから」


「……どんなこと考えてたの?」

「貴女が私より先に逝ったらどうしようとか考えてましたからねぇ。そのときの自分はどうするのかとか」

「ふうん。暗いねぇ?先のことはなるようになるよ。ケセラセラ?」

「ふふふ、そうですね。確かにそうです。そのときになって見ないとわかりませんし
その時貴方はどうするんでしょうね?」

「どうだろ?とりあえずは泣きそうだけど。」

「なんかいいですねぇ。自分が好きな人が自分が死んだら泣いてくれるっていうのは」

「そういうことはあんまり言わないで欲しいなぁ?先に死んだら後追うかもよ?」

「そういう風にいってくれるのは嬉しいですけどね。ただでさえ女性のほうが寿命長いんですから
たとえ、私が死んだって新しい好きな人でも見つけて幸せにいきてってくださいよ?
あんまり早く再婚されるのも嫉妬しそうで嫌ですが死んでるから仕方ないですし」

「なーんか、やだな。そういう風に言われるの。貴方がが先に死んだら後追うかもしれないんだから
頑張って私より長く生きてよね。自殺って痛いそうだからあんまりやりたくないし」

「やらなきゃいいじゃないですか?」

「じゃ、貴方が私より先に逝かなきゃいいじゃない?違うの?」

うわぁ自分本位バンザイ。でもまぁらしいなぁ

「そうですね……いつか訪れるそのとき、貴女に先に逝かれるって言うのもきついなぁと思いますけど
貴方にそういうこと言われるのも嫌ですし、万が一貴女がそんなことするのは絶対嫌ですから」

だからまぁ




「貴女より、ちょっとだけ長く生きるように努力しますよ」


そんなことを決心した夜の夫婦のひととき。











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