とおいとおい昔の国の出来事です。あるところに王がいました。
王には息子と娘がいました。王は息子を呼んでこういいました
「ある森を通ったとき、二本足で直立した人語を喋る獅子から、「ここは私の領地だ。そのシマにお前は無断で侵入した。王よ、今ここで私に引き裂かれたくないならばお前の娘を私に差し出せ」といわれた。とり合えずまだ死ぬわけにはいかんから適当に受諾して帰ってきた。お前はどうすべきだと思う?」
「父上はどのようにお考えなのでしょうか?」
「聞いておるのはわしじゃが。まぁいい。今の基本的な考えではわが兵を引き連れ、森を包囲し、森に火を放つ。放ったならば森の出口からすこし離れた場所で待つ。もし奴が出てくるようならそこに矢を射掛け、仕留める」
ああなんということでしょう。王には約束を守る気持ちはこれっぽっちもないようです。
「なぁに、脅され、強要されて結んだ約束など無効だ。獣だというのはともかく、礼儀しらずに娘をやるのは論外よ」
正論でした。
「父上、基本的にその意見には賛同ですが、相手がどのような力を持っているかわかりません。ここは兵を出すのはおやめください。兵の被害が未知数です。」
そうなのです。ここは直立した人語を喋る獅子があっさりと認められる世界。武器と魔法のファンタジー世界なのです。凡百の兵士がかかっても一人の化け物にかなわぬ世界。一人の剣士が戦場をつっきり、一人の魔道士の魔法が
部隊を敗退させる世界。「戦は数だよ、兄貴!!」の論理がまったくではありませんが通用しにくい世界なのです
「ふむ、ならばどうする。」
「私にお任せください。その獅子の強さ、要求の意図を見定めてきます。可能なら説得、撃破を試みます。」
そうなのです。この国の王子様は非常にお強いのです。どのくらいかというと他国への訪問道中襲ってきた竜を殺さずに返り討ちにし
慰謝料として財宝を要求したことがあるほどです。
「お前が強いのはわかっておる。しかし相手がもっと強ければどうする気じゃ?お前に死なれるのはいやじゃぞ」
「ご心配なく。絶対とは言いませんが、勝てないと少しでもわかったら逃げてきます。私にも生き延びる義務がありますし、父上や妹を悲しませたくないので。」
そんなこんなで王を納得させた王子は獅子が住む森へ向かいました。
森に入ってしばらくすると何かの気配を王子は感じました。そろそろかと思っていると、直立した獅子が現れました
「何だ、貴様は?王女はどうした?」
「私はこの国の王子です。あの約束は無効だ!!父が知らずにとはいえ貴殿の領地に入ったのは悪いだろう。だがそれぐらいで妹をやるわけにはいきません。なにより父の命を盾にした脅迫などもってのほかです。だいたいこの森はわが国の領土!そこにすんでいるからといって王が不法侵入にとわれるなどおかしいのです。」
「この森にはずっと住んでいたのだ。ゴチャゴチャ言わずに王女を連れて来い」
「なぜ、あなたは妹を欲するのですか?」
「貴様にいう必要はない。もういい貴様を引き裂いて王城に届ければ王の気も変わるだろう!!」
「仕方ありませんね。降りかかる火の粉は払わねばなりますまい!」
戦いがはじまりました。獅子は爪や牙だけでなくその巨体に似合わぬ魔道詠唱や口から吐く炎などで攻撃してきます
一般の兵士であれば到底かなわぬ相手でしたが、そこは王子。爪や牙に対しては素手や剣によるカウンター、魔道や炎はより強い魔道で応戦し、あっさりと勝利します。
「やれやれ、思ったよりもあっけない。さてではそろそろと留めと行きましょうか」
「まて、私は、ゲフィぃ。」
「まてだといえる立場ですかあなたは?頼み方というものがあるでしょうか」
王子の鉄板入りの靴により蹴られた獣がうめいています。立ち直って言いました
「私はさるくにの王女だ。根性最悪の魔女に呪いをかけられこのような姿になった。私を心から愛してくれる女がいなければその呪いは解けない。それで王女がほしかったのだ」
嗚呼なんということでしょう。獅子は王女で呪いを解くために王女を必要としていたのです。あれ?
「遺言は終わりましたか?ではそろそろ天に召されてくださいね。」
「まてまて、バブァァ。」
王子の鉄板入りの靴蹴りがヒットしました。
「女の顔を蹴りおったな!!」
「男女区別、差別しない主義なんですよ、私は。だいたいなんで貴方が女なのに相手も女なんですか?それになぜ王女なんです?」
「だから、根性がまがっとるのだ。私には女を好きになるような嗜好はない。美しいと誉れ高いこの国の王女なら他よりはまだ可能性があるだろうとおもったのだ」
嗚呼なんてかわいそうなお姫様でしょうか!!
「そうですか、じゃあさっくりとそろそろ逝きましょうか。」
王子はまったく気にしていません。むしろ、殺気は強まっています
「あのですねぇ、私は父や妹を愛しているんですよ。それなのに妹をよこさねば父を殺すと脅すような人間に、理解はできても同情する気はまったくないんですよ。」
「鬼、人でなし、悪魔!!」
煩くなってきたのできり飛ばしたくなりましたが、基本的には善人の王子様。一応の情けをかけてあげることにしました。
「城に連れ帰ってあげますから、そこでいろんな人に愛されるよう努力してください。しかし、そこで力づくでことをなそうとすれば…わかっていますね?」
「わかった。前向きにがんばる」
「ちなみに貴方は自分で魔道研究して呪いを解こうとしなかったんですか?」
「あ」
間抜けな獅子王女を引き連れて王子は帰っていきました。
この続きはまた別のお話。