まだ残暑厳しい九月の終わり
今日は週に一回と言う久しぶりのお休み,
冷房つけてごろごろ
最愛の方、お布団に抱かれて至福を感じる。
クーラーとお布団と言う贅沢かつ矛盾した取り合わせが最高
ああ、このまま時が止まればいいのに……

ガチャ……

そうやって憩いのひと時を過ごしていると無粋な来訪者の声が



「ねぇ、今日、どっかつれてってよ」


……ああ、私よりずいぶん早く起きていた相方の声。
まぁ私より早くと言っても私が起きたのが午後2時で
今が午後4時ですからあまり意味は無いんですが

やです。私は今最愛の方と一緒にいるんです。
まだ2時間くらいしかごろごろしてないんですよ!あと5時間くらいはごろごろしてたいんですよ!
飢えていとしき方と別れたくなるまでー
ゆえに無視兼眠っているふり決定。いつも貴方に振り回されてる私じゃないんですよ!
家族さーびす?知ったこっちゃねぇ。ああ至福

「ねぇ、ねぇどっか行こうよー、二人とも休みがちょうど合ったんだしさぁ」

ゆさゆさゆさ……
私を揺さぶる相方、ひたすら無視する私。眠いんですよ。
いいじゃないですかたまの休みにごろごろしてたって
今日は貴女といちゃつくよりお布団とイチャイチャしたいんですよ

「…………」

静かになりましたね……
諦めてくれましたか?怒らせてしまったかもしれません。後が怖い……
この過ちのツケを払う時がいずれくるでしょう。しかしその罪を選びましょう
今この時が愛しいのですから
嗚呼お布団、愛しきお布団まいすいー……

ぼすっ!

「げほっ!」

腹部に走る痛みと圧迫感。呼吸が苦しい。蹴られたみたいだ。

「あ、起きた?」

そんなことをほざきながら私の奥様が素敵な笑顔を浮かべなさっている

「……なにしてんですか、奥様……」

最愛の方との至福のひと時を邪魔されて非常にご機嫌斜めの私
それにかまわず奥様は

「いや、起こそうと思って。優しく起こそうとしても無理だったから、タイガーショット風に蹴った」

「……何ソレ?」

「知らない?かの有名な日向小次郎の初代ウイニングショット。
ネット突き破ったり人間吹飛ばしたりするからウイニングショットと言うよりは必殺技かな?」

そんなことが聞きたいんじゃねぇ

「……なんでアナタは夫を必殺ショット風に蹴ってんですか?」

こういうことが聞きたいんですよ奥さん

「起きないから。もしこれでも駄目だったら第二段必殺ショット
ネオ・タイガーショット風に下腹部を蹴ろうと」

そういって蹴るまねをする相方
というか下腹部って……まさか?

「……鬼ですか、アンタ」

使い物にならなくなったらどうしてくれるんですか

「ま、いいじゃない。起きたんだからどっか連れていっておくれ」

素敵に自分本位。しかし、今日の私は一味違うのですよ!


「眠いからまた今度ということで、お休みなさーい」


さようなら、奥さん。こんにちは最愛のお布団。あーなーたーと二人、わーたし、夢の国。


「寝たらさらに進化したワイルド・タイガーショットね?」

一気に殺る気ですか?
……順番からいったら雷獣ショットはどうなったんでしょう?
しかし今日の私は一味違うのですよ?、
返答は

「行かせていただきます、奥様」

この歳で不能になりたくないですし、命が惜しいんです。
一味くらい違ったところで勝てるわけ無いじゃないですから
料理だって一味から二味になっただけじゃおいしいわけじゃないですし。
もともと味が少なければたいしたことが無いんですよ?
……どうしてこんなに私は弱いのでしょう
自分に突っ込んでます。さようなら最愛の方お布団とのごろごろタイム。
こんにちはわが奥様とのデート




夏の夜の華




そんなこんなで近く、(と言っても車で20分くらい)でやってた夏祭りへやってきました
九月末になって夏祭りとはえらくのんびりしてるなぁとおかしみを感じながら二人で歩く
結構な人がいてなかなか盛況。
祭りの風物詩、屋台の味、わたがし、たこ焼き、焼きそば、林檎飴といったものをつまみながら
歩く私たち。

「ふふふ、おいしいねぇ」

わたがしをほおばりながらご機嫌な奥様、子どもみたいです。

「それは良かった。来た甲斐がありましたね」


「うん。貴方は楽しんでる?」

「ええ。楽しんでる貴方を見て、私も楽しんでます」


こういう貴女を見るのは最愛のお布団を捨ててきた甲斐があったというもの


「ふーん、なんか悪いねぇ、夏祭り自体はあんまり楽しんでないようで。」


「そんなこともないんですけどね。ただ貴女を見ているほうが楽しいだけで」

「そういってくれるとありがたいよ。寝てる貴方を起こした負い目がかすかにあるからねぇ。
楽しんでるんならいいけど」

ぜんぜんすまなそうじゃなく言う。

「……夫を蹴り起こしておいてそこで微かにしか負い目が無いという貴方は素敵だと思いますよ」

「惚れ直したかね?夫よ」

「……はいはい」

そんなこんなでいつものようにじゃれあっていると



「……8時から花火が始まります。……あと10分ほどで花火が始まります。
見やすい場所まで移動しておくことをお勧めいたします……」

と言う放送が聞こえてきた。

「見に行きますか?」

一応聞いてみると

「もちろん。夏祭りといったら花火でしょう!」
当然といった感じで

ちょっとした坂の上に上って花火を見ることに。
ここは穴場だったみたいで近くにあんまり人がいない
ひゅー……ぱぱーん。
夜空に花火が上がる。夏祭りの最後のしめ




「かーぎやー」


「た−まやー」


おたがいに違う決まり文句を叫ぶ。
昔から続くこの文句、昔の花火で「かぎや」と「たまや」という花火屋が
競って作ってあげていたことに由来するらしい
そんならちもないことを考えていると

「きれいだねー」

奥さんが花火を見て興奮したのか、少し顔を赤くしてつぶやく

「そうですね。流石は夏の風物詩」

「うん流石は5万ドルの夜景だよねー」

「……? なんですそれ?100万ドルの夜景とかは聞きますけど?」

「うん。5万ドル。花火大会の打ち上げ花火ってね、高いモノになると一発五十万円くらいになるんだって
安いものだと5000円しないらしいけど。んで普通の花火大会だったら500万円くらいするんだって」

「それは……夢があるようで無い言い方ですね。比喩じゃなくて実際の値段ですか?」

「うん、看板広告に偽りなしってね?」

「即物的な言い方ですね……」

「いいんじゃない?見て感じる夢とかロマンとかなんてそれぞれが勝手に感じるものだし」


「ミもフタもない……でも貴女らしいですね」

「そうでしょ?それに私は貴方とこうしてるだけでロマンていうか、どきどきするから別にいいし。」

あー……うー……

「…………」


「照れてるのかな?ふふふ、いつまでたっても初々しいね」

またいぢめるきですか……

「……純情なんですよ、私は」

「なによそれ?私が汚れてるみたいじゃない」

笑いながらいう相方。そのとき

ひゅーーっぱぼぼぼぼぼん

一際大きな花火が上がった。


「ホント、綺麗だね」

「そうですねー」



……よし

ぎゅっ。
相方の手を握る。

「……めずらしいねー、人少ないっていっても外で貴方がこういうことするなんて」

「……たまにはね。私も貴女といてどきどきしていますから」

「……そっかー」

二人とも何も喋らなくなってしまったけど
心地よい空気が流れている。

そんな中、花火を見ながら
貴女の横顔を盗み見て
来年も五万ドルの夜景を貴女と見たいと思った夏の夜







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