西暦2195年 人類が火星に植民地を創り人々がそこで生活し始めていた頃。
正体不明の無人戦闘兵器群により火星は攻撃を受ける。
通称木星蜥蜴。地球連合宇宙軍は火星宙域において火星駐留艦軍の総力を持って迎撃にあたる。
しかし艦艇の優劣の差、どこからか現れる度重なる増援などの要因などにより火星駐留艦軍は壊滅的な打撃を受け敗走。
火星は陥落。軍は火星からの残存兵力の全面撤退を決定。
火星とその一帯の宙域は木星蜥蜴のものとなった。





それから一年後 サセボ・シティ ネルガル重工ドッグ
「ずいぶん、いかれた形をした船よね?」

「これは手厳しい。まあこれでもわが社が誇る最新鋭艦ですよ」

そうネルガルのスカウト担当が答えた。
プロスペクター。調べてみたらそれなりに有名な男。交渉技術、戦闘、経理に長けた人物。どれが専門なのかは知らないけどね。
「試験艦でしょ」 

それにこいつが性能を発揮してやっとトカゲどもの艦と渡り合えるといったところでしょうし。
「これまた手厳しい。まぁお手柔らかに。それでは艦橋に案内いたしましょう」

そういって歩き出した。隙がないわねぇー?不自然に自然な振舞いだし。シークレットサービスもかねてるのかしら?
そんなことを考えているとブリッジに着いた。そこで各員の紹介を出港前にしようとしたとき
突然の振動と共に警報非常警報が鳴った。  
「なにがあったのっ?」

「木星トカゲの襲撃です。現在サセボにて軍がが迎撃に当たっています。戦局は不利みたいですけど」

オペレーターのホシノ・ルリは淡々と口にした。
  さっそくかしら?やれやれね
「副提督として直ちに出港を命じます」

「それは無理です。艦長が来ていないのでマスターキーが使用できません。艦としての能力は非常に限定されたものとなります」

「ならその艦長はどうしたの?なぜいないのよ!」

いくらなんでも予想外すぎるわ。出港前に沈んじゃ洒落にもなんない。
「そういえば、艦長ってどんな人なんですか?かっこいい人だったらいいなぁ〜」

「無理無理、どうせわがままいっぱいのボンボンよ。だからブリッジの要員が全員女性じゃない?」

こんな状況にもかかわらず通信士のメグミ・レイナードが発した疑問に操舵士のハルカ・ミナトが答える。

そんなことより現状をどうにかするほうが重要でしょうに。
腕は一流。 性格に一癖二癖あっても。
ってコンセプトで集められたらしいけど、性格がアレすぎると能力だって活かせないんだけどねぇ。
やだやだ、そんなことはどうでもいいわ。
アタシはこんなところで死にたくないし、死ぬ気もないし、死ねない。
策をうたないとね?あたしがそんなことを考えていたそのとき、ブリッジの上段に人影が現れた。
「遅れました。艦長のミスマル・ユリカです、ぶい!

うわ、予想以上にアレじゃない?
「ぶい?」
 ブリッジの全員の冷たい視線が突き刺さる。敵襲のどさくさで、艦長が乗船したことも忘れられてたみたいね。
すぐさまマスターキーを投入。出港作業に取り掛かる。 「ええっと、囮をだして敵を誘導、ナデシコはその隙に海面にでます。囮によって集結した敵をグラビティブラストで一掃しちゃいましょう」

 士官学校の戦略シミュミレーションで無敗を誇ったという逸材は、状況を確認するとそう作戦を立てた。
「無理です。パイロットのヤマダジロウさんは先ほど格納庫にエステバリス搭乗中骨折。出撃できません」

後から合流する予定だったらしく、人型機動兵器エステバリスの パイロットは、自発的に乗ってきて骨折したヤマダジロウしか乗っていなかったらしい。
実戦で使えないなんて役に立たない馬鹿だこと。

「囮なら出てるけど?」
 ハルカの報告に全員の視線がモニターに写った青年に集中する。
「君は誰だね。氏名所属を答えたまえ」

 それまで一言も声を上げなかったフクベ提督が問う。
「テンカワ・アキト。コックですっ!」

モニターに映ったコックだという人物自分がおかれた状況をまだ理解していないらしく、戸惑っていた。
「テンカワ・アキト?」
ミスマルが何かつぶやいている。

あー、アキトだぁ〜っ!!


大声でミスマルが叫ぶ。かなり苛つく。
いきなり叫ばれてぎょっとするテンカワ。だが、ミスマルはそんな彼に構わず
「なっつかし〜、アキトったら何でさっき言ってくれなかったの? そっか〜、相変わらず照れ屋さんだね!」

「ちょ、ちょっと待てよ? なんだよ、お前はそこで何してんだよ?!」

「ナデシコの艦長さん。」

「ちょうどいい。艦長、彼に囮をやってもらおう。」

「アキトを囮になんて出来ません。危険すぎます!」

「おい、何だよ、囮って」

「わかってるわ。アキトの熱い決意を、ユリカがどうこう言う事なんて出来ないよね!」

「人の話をきけ〜っ!!」

自己完結してやがるミスマル。
  「手短に言う。この艦が海面から浮上するまで時間を稼いでほしい。最終地点はここだ。健闘を祈る」

ゴートが簡単な説明をし、一方的に通信をきった。無茶言うわね?捨て駒にする気かしら?
『え!?なんだよ!時間を稼ぐって何だよ!!』

ゴートが簡単な説明をする間にエステバリスは地上に出た。
周りにはバッタの群れ、そいつは、その時点でやっと事態を実感したみたいだった。
『ちくしょう!何でこんなことに!?・・・俺は戦争から逃げたいんだ!!』

 ならなんでそんなところにいるのかしら?
「へぇ、上手いじゃない」

「これはほりだしものですなあ」

 プロスペクターとハルカがのんきなことをいってる。
ま、素人にしてはうまくやってるみたいだけどいずれ落ちるわね?
ブリッジではモニターでテンカワの様子を見ながら発進準備を着々と進める。
クルーの条件、性格はともかく腕は一流というのは嘘じゃないみたいね。
 しばらくモニターを見ていたが、徐々に追い込まれていくエステバリスを見てアタシは動くことにした。
   やれやれ。指揮官が実働するようじゃいけないんだけどね?軽くため息をついて通信席に歩み寄る。
「メグミ・レイナード、突然で悪いけど今から格納庫につないで。助けになると思うから」

 緊張し、少し怯えていたレイナードも助けるという言葉を聞いて幾分緊張を解いた。
手早くつなぐ。大部分の人間はテンカワに釘付けになっている。
プロスペクターとホーリーは気づいてるみたいだけど特に何も言わない。
  「整備班、聞こえる?エステバリスの予備はまだあったわね?。」

  ややあって返答があった。
「整備班のウリバタケだ。一機あるにはあるが乗るやつがいねぇぞ?」

 モニターを見るとエステバリスが被弾している。艦はまだ発進できそうにない。
「それはこっちで用意するからエステの用意をお願い。すぐ行くから。」

「わかった。仕上げとく」
「ありがと」
プロスペクターが訝しげな表情をしている。
「エステバリスを借りるわよ。あたしが援護にいくわ」

格納庫

「エステバリス、準備できてる?」

に向かったあたしはウリバタケにそう聞いた。
「できてるぜ。」

「悪いわね、うまくいったら奢るわ」

「そいつは楽しみだな」

地上

「うわー、うわあああっ、来るな、来るなよおっ!!」

被弾し囲まれているエステ。もうそんなに、もちそうにないわね。ったく面倒ねぇ!!
「そこのコック。道作るからさっさとさがりなさい。死にたくないんだったらね!」

「ど、ど、どど、どうやって?」

「こうやってよ!!」

ライフルを連射し、バッタを爆砕する。
「穴ができたでしょ!!今のうちにさっさと退きなさい!」

「でも、あんた一人じゃ?!」

「あんたがいるほうが邪魔よ。足手まとい。さっさと退きなさい」



「すっごいわねぇ…」

 思わず漏らしたミナトの呟きが、ブリッジ一同の感情を物語っていた。
 ムネタケのエステはまさに無駄のない動きと正確な射撃ででバッタの群を圧倒していた。確実にバッタの数は減少していく。
「あの方は軍から派遣されたオブザーバーなのですが…いやはやこんな技能をお持ちだったとは。うれしい誤算ですな」

  モニターの中では、テンカワのエステが合流ポイントについたことがわかった。
「ナデシコ浮上まで後3分」

 カウントを読み上げる、ホシノの冷静な声。
    「そろそろね」

 バッタの攻撃を避けながら、あたしは合流ポイントに向かう。もう反撃は最小限にとどめ、合流に専念する。
 バッタの群れをかいくぐり合流ポイントに着いた。まだ来ていない。そろそろ時間のはずなんだけどね?
そのとき海面がからいかれた形の艦体が姿を現す。

 機動戦艦ナデシコ。
「ご苦労様でしたあ。合流してくださぁい」

ミスマルが少し苛つく声で叫ぶ
「敵残存兵器、全て有効範囲内」
「グラビティ・ブラスト、チャージ完了!」

「目標、敵まとめてぜーんぶ! てぇーーっ!」

 ミスマルの号令のもと、ナデシコの主砲が放たれた。
重力波がバッタ達をまとめて殲滅し、エネルギー波が通った後には何も残っていなかった。
「バッタ、ジョロとも残数ゼロ。地上軍の被害は中程度」

「認めざるを得まい。良くやった艦長」

「まさに逸材です!」

「やった〜っ!! アキトすごいすごーい!」

「か、勘違いすんなよ! 俺はお前をためとかじゃなくてなあ!!」

「うん! わかってるよアキト照れ屋さんだもんね!」

「ちっがーう、俺はお前に聞きたいことが!」

「ユリカが好きなのはアキトだよ?」

「ちがーう!」

「何だか先行き不安ですね?」

「え〜、でも結構面白そうじゃない?」

「人の話を聞け! 俺はお前に」

「わかってるから!!」

「わかってねぇ!」

「照・れ・屋・さん」
「人の話を聞ききやがれぇっ!」
「バカばっか」

やれやれ、最初からいきなりハードだわね。
ところでねぇ、ホシノ、あたしのほうこそアンタのそのセリフを言いたいわよ。
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